ブランドの立ち上げでOEMを使うとき、つまずきの多くは生産の現場ではなく、その手前の「伝え方」と「確かめ方」で起きています。イメージと違うサンプル、量産で変わってしまった仕様、印刷できないロゴデータ。ここでは、立ち上げの服づくりで起きやすい失敗と、それを防ぐために押さえておきたい実務のポイントを整理します。
立ち上げの失敗は、生産の前に決まっている
「サンプルがイメージと違った」「量産品がサンプルと違う」。立ち上げの現場でよく聞く失敗ですが、原因をたどると、工場の腕よりも、最初に伝えた情報の不足や食い違いに行き着くことがほとんどです。
工場は、受け取った情報をもとに服をつくります。書かれていないことは、工場の経験や慣習で補われます。その補い方が自分の意図と合っていれば問題は起きませんが、合っていなければ、イメージと違う服が仕上がります。服づくりの品質は、生産に入る前の準備でかなりの部分が決まっています。
思いを、文面にする


ブランドを立ち上げる方の頭の中には、つくりたい服のはっきりしたイメージがあります。ただ、そのイメージは、本人にしか見えていません。「ゆったりしすぎない」「上品な光沢」「しっかりした生地」といった言葉も、受け取る人によって思い浮かべるものが違います。
まずは、なぜこの服をつくるのか、誰にどんな場面で着てほしいのか、どこだけは譲れないのかを、文章にしてみてください。そのうえで、参考になる写真や手持ちの服、生地の切れ端などを添えて、「この服のこの部分」と具体的に示します。「着丈は手持ちのこのシャツと同じくらい」「この生地より少し厚く」のように、比べられるものがあると、意図はずっと伝わりやすくなります。
文面にしておくと、仕様を決める途中で迷ったときの判断基準にもなります。生地や付属を選ぶ場面で、何を優先するかがぶれにくくなります。
仕様書に、必要な情報をすべて落とし込む
仕様書は、工場にとっての設計図です。口頭やチャットで伝えた内容も、最終的には仕様書に反映されていなければ、量産の現場には届きません。少なくとも、次のような情報を一つの仕様書にまとめておきます。
- デザイン画(前・後ろ・必要に応じて横や内側)
- サイズ展開と、各サイズの寸法表(測る位置もあわせて)
- 生地(品番、組成、色、厚みや風合いの指定)
- 付属(ボタン、ファスナー、芯地、糸などの品番と色)
- 縫製仕様(縫い代の始末、ステッチの幅や運針、補強の位置)
- ロゴやプリント、刺繍の位置と大きさ
- ネーム、品質表示、ケアラベル、下げ札の内容と付け位置
- たたみ方、袋入れ、箱詰めなどの仕上げと梱包
日本で販売する衣料品には、家庭用品品質表示法にもとづく組成表示や取扱い表示が必要です。表示の内容は生地と縫製が決まってから確定するため、後回しにされがちですが、ラベルの手配が遅れると出荷そのものが遅れます。仕様書の段階で、誰が表示の内容を決め、誰がラベルを用意するのかまで決めておくと安心です。
ロゴや柄は、必ずベクターデータで用意する
ロゴやプリントの柄、刺繍の図案は、Adobe IllustratorのAI形式やEPS、PDFなどのベクターデータで用意してください。スマートフォンで撮った写真や、ウェブサイトから保存した画像では、拡大したときに輪郭がぼやけ、プリントの版や刺繍のデータをきれいにつくることができません。
ベクターデータがないと、工場側で画像をなぞってデータをつくり直すことになり、その分の時間と費用がかかるうえ、細部が元のロゴと変わってしまうこともあります。ネームや下げ札、ショッパーなどの副資材にも同じロゴを使うことを考えると、最初にきちんとしたデータを整えておくことが、ブランドの見え方を守ることにもつながります。
色の指定も、言葉だけに頼らないことが大切です。「くすんだピンク」のような表現ではなく、パントーンなどのカラー番号や、生地メーカーの色見本の番号で指定します。生地は素材や織り・編みによって同じ色番号でも見え方が変わるため、可能であれば実物の色見本を共有し、染めあがった生地で色を確認してから量産に進みます。
サンプルは、費用ではなく開発経費と考える
立ち上げのときは、できるだけ出費を抑えたいものです。そのため、サンプルの回数を減らしたり、確認を省いて量産に進んだりしたくなることがあります。
しかし、サンプルは、仕様書に書いた内容が本当に思いどおりの服になるかを、実物で確かめるための工程です。ここで見つけられなかった問題は、量産品のすべてに同じように現れます。量産が終わってから気づいても、つくり直しには、サンプルとは比べものにならない費用と時間がかかります。
なお、サンプル代は、同じ服の量産時の単価より高くなるのが一般的です。量産では、パターンづくりや裁断の準備、縫製の段取りといった手間を、数百枚、数千枚に分けて負担します。サンプルでは、その手間を1枚から数枚で負担することになります。生地や付属も少量だけ用意するため割高になり、縫製も、熟練の職人が一着を最初から最後まで仕上げるのが通常です。サンプル代が高いのは、こうした「一着をつくるための準備」がそのまま含まれているからです。
サンプル代は、ブランドの最初の商品を完成させるための開発経費だと考えてください。修正のためにもう一度サンプルをつくることも、失敗を防ぐための投資です。立ち上げの予算を組むときは、サンプルを複数回つくる前提で、費用と日程を見込んでおくことをおすすめします。
サンプルの確認で、見るべきところ
サンプルが届いたら、見た目の印象だけで判断せず、仕様書と照らし合わせながら確認します。
- 寸法:寸法表の各項目を実際に測り、許容の範囲に収まっているか
- 着用感:実際に着て、動いたときのつっぱりや、丈の落ち着き方
- 生地と色:風合いや厚み、光の下での色の見え方
- 付属:ボタンやファスナーの種類、色、付け位置
- 縫製:ステッチの幅や運針、縫い代の始末、補強の位置
- ロゴ・プリント・刺繍:位置、大きさ、色、仕上がり
修正を伝えるときは、「もう少し短く」ではなく「着丈を2cm短く」のように数字で、場所がわかりにくいところは写真に印をつけて伝えます。そして、決まった修正は口頭やチャットのままにせず、必ず仕様書に反映させます。
量産前に、仕様書を最終確認する
サンプルの修正を何度か重ねると、仕様書の内容と、実際に決まった内容がずれていくことがあります。チャットで決めた変更が仕様書に反映されていない、古い版の仕様書が工場に残っている、といったことは珍しくありません。
量産に入る前には、最終のサンプルと仕様書を並べ、すべての項目が一致しているかを確認します。寸法、生地、付属、色、縫製、ロゴの位置、ラベルの内容、梱包の方法まで、一つずつ見ていきます。確認が終わった仕様書を最終版として共有し、量産はその一冊をもとに進めます。
あわせて、発売日から逆算した日程も見直しておきます。生地の手配、量産、検品、輸送、検品後の出荷準備にはそれぞれ日数がかかります。サンプルの修正が長引くと、その分だけ後の工程が詰まります。どこまでに仕様を確定させれば発売日に間に合うのかを、最初に決めておくと判断がしやすくなります。
だからこそ、パートナーは「レスポンス」と「対応の質」で選ぶ
ここまで見てきたように、ブランドの立ち上げでは、思いを伝え、仕様書に落とし込み、サンプルで確かめ、修正を反映させるというやりとりを何度も繰り返します。そのため、OEMのパートナーを選ぶときは、価格や対応できる数量だけでなく、やりとりの質を見ることが大切です。
- 問い合わせや修正の依頼に、どれくらいの早さで返事があるか
- 仕様書のあいまいな点や抜けている点を、生産の前に質問してくれるか
- できないこと、難しいことを、理由とともにはっきり伝えてくれるか
- 決まった内容を、記録に残して共有してくれるか
返事が遅いと、そのたびに日程が後ろにずれていきます。確認をせずに工場側の判断で進められてしまうと、イメージと違う服が仕上がります。見積もりの金額は比べやすい一方で、やりとりの質は比べにくいものですが、立ち上げの成否を左右するのは、むしろこちらです。最初の問い合わせやサンプルのやりとりの段階で、こうした点を見ておくことをおすすめします。
MONOIDの関わり方
MONOIDは、東京・麹町と中国・南通を拠点に、アパレルOEMの生産管理、品質管理、貿易実務を担っています。お客様のイメージや参考資料をうかがいながら、仕様書に必要な情報を一緒に整理し、足りない情報やあいまいな点があれば、生産に入る前にこちらから確認します。
サンプルの確認や修正は、東京と南通のチームが同じ仕様書を見ながら進めます。決まった内容は仕様書に反映させ、量産前には最終版の仕様書とサンプルを照らし合わせてから、生産に入ります。
伝わった分だけ、服は思いに近づく。